次のレース。
さっき大儲けしたので、
「次は一万円賭けちゃおうかな…」
と呟くと、
丸の内氏は、真剣に、
「それはダメ!
一回千円と決めてきたのなら、一回千円。
儲かった分は使ってはダメ!」
とピシリと言う。
我がメンターの競馬道は、なんだか武士道。一本気。
そして、
次のレースは負けてしまった。
勝つときと同じく、すべてがまことにあっさり、
あるべきところに収まっていくという感じで、
手元の馬券にない番号の馬がゴール。
でも、丸の内さんは 全然平気。
「さぁ!食事に行きましょう!」
そういえば。
氏は、勝っても負けても同じ顔。
負けて悔しい顔をしないのも不思議だが、
勝ったときに、どうだ凄いだろう!という顔をしないのもよほど不思議。
実はこれを書いてる日曜日のうららかな昼下がり。
閑静な住宅街に響く、女性のヒステリックな叫び声。
どうやらどこかのお宅で夫婦ケンカをしているらしい…。
女性は泣いてわめいて、
「私のお金を返してよ〜!」
と叫ぶ。
「私のぉ、五千円…!
その前の三百円も!五百円もぉ!」
ホントにホント。作り話じゃないですよ。
人ってお金と感情をごちゃまぜにして、計5800円で、こんなに激しくなってしまうんだ。
丸の内氏が、完全にこのあたりを超越しておられるのは、
会計士時代に桁違いに大きいお金と付き合ってきたからかもしれないし、
氏の半生において、お父様の事業がバブルの風に煽られて、
栄枯盛衰の様々、それにまつわる人間関係の様変わりをつぶさに見てこられたせいもあるだろう。
それにしても…だ。
なぜ、超越できたの?
死ぬまで、お金とのパワーゲームに気付かず、負けつづける人だってたくさんいるのに。
以前、なにげなく交わした会話が深い意味をもって蘇る。
「丸の内さんの新馬塾の経理はどうされてるのですか?」
「経理は他の会計士に任せています。
自分にしかできない仕事に集中したいから…。」
一億三千万人の日本人に二万人しかいない公認会計士。
それでも彼は、さらにそこから自分にしかできない仕事を追求した。
だんだん解ってくる。
彼は自分でいることに常に集中している。
彼の幸せは、人に評価されるところにはない。
確かに、競馬は分かりやすい。
人からの評価がなんだって、自分の馬を見る目が確かなら、
ちゃんとお金という形になって成果が反映されるのだ。
なるほど、彼がいつでもものすごく自然体でいられるのは、その所以。
昔、テレビでダンサーの島崎徹氏が言ってたっけ。
「いいものをもっているのに、ダンスが下手といって辞めてしまう人がいます。
でも、上手い下手で悩むというのは「人と比べて」、ということですよね。
幸福感を考えてみてください。あの人より幸せじゃないから、私は幸福じゃない、って考えますか?」
そう考えると、
丸の内氏は完璧に自分のダンスを楽しんでいて、
ついでに周りをも豊かにしている。
また、私の目からでっかい鱗がボロンと落ちちゃった。
私の目には何枚鱗がついているのやら。
さて、お食事の風景。
ガクトがジュースを飲んでいる。
珍しくストローなんてものを使っているから、
ブクブクブクブク。
丸の内氏が、
「うぁ。そんなことをしちゃあ、ダメだろう!」
と、びっくりしながら注意。
ガクトも神妙に、
「もうしないよ。もうしないよ。」
なんて言っている。
パリリッと折り目正しく向かいあう二人。そんな丸の内氏に、やっぱり私は安堵する。
(息子の愚行はごめんなさい)
それから氏とお友達たちは、そのまま帰られるという。
「今日はありがとうございました」
とガッチリ握手。
今度は折り目正しく私と向かいあってくれている。
なんだかとてもエネルギーがわく。
スポーツマンシップにのっとり!みたいな気持で、
「また来ます!」と約束。
もう反対側に駆けているガクトを追いかけて
外に出ると、お日様がキラキラ暑いくらいのいい天気。
午後からはポニー乗り場がやっていたので、私と子供たちはポニーに乗り、
馬と触れ合い、となりのアスレチックで少々遊ぶ。
アスレチックの丘の向こうは競馬のコース。
またファンファーレが聞こえたので、
丘を駆け登り、芝を下り、柵にへばりつく。
来た!
馬の群れが目の前のコーナーを曲がる。
瞬く間に目の前を通過し最後の直線に入る。
スタンドから、沸き上がるウォーッと地響きのような大歓声。
午前中に比べたら、すごく人も増えている。メインレースはこれかららしい。
でも、もう、今頃、丸の内氏は帰りの電車の中だろう。
そう、彼は自分の幸せに集中している限り、豊かなんだ。
休日の午後。
お祭りみたいな競馬場を後にして、
なお私は一人高揚感にひたっていた。
ねぇ。
私にだって、
私のダンスは踊れるはず!
さぁ!自分の人生を始めよう!
眠ってしまった息子が背中で重い。
だけど、森の中から出てきた女の子ショコリンには、
この重さが、現実世界でやっていく、リアルな重さに感じられて
、ちょっと心地がよかったのである。
完!
思いがけずにすごい大作!
ばんざ〜い!
読んでくださった皆様ホントにサンキューです!
そしてやっぱり丸の内さんにはホントにスペシャルサンキューです!